旅人の脱在論 自・他相生の思想と物語りの展開
旅人の脱在論 自・他相生の思想と物語りの展開
本商品は「旧ISBN:9784423171493」を底本にしたオンデマンド版商品です。
初刷出版年月:2011/01/01
存在神論や根源悪の問題を突破した脱在論の構築を志向しつつ、物語り解釈から、他者論さらに相生論の地平を披く。間・辺境を越境する旅路に読者を誘う思想的試み。
地球化時代の現代、われわれはどのような危機と虚無の只中にあるのか。人間には明るい和解と共生の未来が開かれているのか。本書は前著『他者の甦り』の提起した問いを引き継ぎ、存在神論や根源悪の問題を突破した脱在論の構築を志向しつつ、物語り解釈から、他者論さらに相生論の地平を披く。間・辺境を越境する旅路に読者を誘う思想的試み。
アウシュヴィッツ的現代の悲劇を脱出する思想的方策、すなわち存在論を突破した脱在論「エヒイェロギア」の構築を目指す。まず、エヒイェロギアがどのようにヘブライ旧約物語りから誕生するかという前著のテーマを解説した上で、他者に関わる物語り群の解釈を通し、他者論の地平を考究する。ギリシア古典のオイディプスに見られる人間の悪なるもの、旧約における預言者エリアの絶望と再生のドラマや新約におけるイエスの譬え、そして西洋中世において破壊的力を持つとともに他者とのかけがえのない出会いをもたらすとされた恋愛論を取り上げ、そこに脱在「エヒイェ」の文学的な展開を示す。さらにその展開のエネルギーが日本へも及び、宮沢賢治や石牟礼道子の文学と生に現成していることを、作品の読解により探究、近代化がもたらした社会問題を思想的観点から論じる。閉塞化する大きな物語を脱し、それらの間、辺境を放浪する旅路に読者をいざなう希望のメッセージ。古典テキストの語りえざる声に耳を傾ける本書の姿勢は、古典論としても重要な示唆を与えよう。
【目次より】
序
目次
第一部 アウシュヴィッツの審問を前に 物語り論的解釈からヘプライ的脱在論(エヒイェロギア)へ
第一章 和解と相生への荊棘的途行き 小さな物語りとエヒイェロギアに向かって
一 物語りと物語り論的自己同一性について
二 存在─神─論(onto-theo-logia)について
三 アウシュヴィッツ的存在─神─論について
四 エヒイェロギアについて
五 難民・異邦人の物語り
第二章 「アブラハム物語り」の現代的地平 自同性の超克・脱在(ハーヤー・エヒイェ)と自他相生の物語り
一 「オデュッセイア」
二 「アブラハム」の物語り、「創世記」(一二〜二五)
三 エチカから脱在(エヒイェ)論(ヘブライ的エヒイェロギア)へ
四 エヒイェロギアからアブラハム的人格と相生の倫理へ
五 間奏的展望
第二部 物語りに働くエヒイェと他者の地平 差異化を生きる放浪の人物群
第三章 無なる荒野に咲く花 オイディプスとホセア
一 オイデイプス王と「神託」への挑み 一つ目の「語り」
二 ホセア物語りと共苦の「預言者」 二つ目の「語り」
第四章 唯一神から「残りの者」へ 預言者エリアの物語り
一 ヤハウェの預言者エリアとバアル予言者との闘い(一八章)
二 「沈黙の声」(一九章)
三 間奏的展望
第五章 イエスの譬え
一 「見失われた息子」(「ルカ」一五章)
1 筋立てと構造
2 異化作用の発見
3 近文脈(一五章)からの考察
4 遠文脈からの考察
二 「善きサマリア人」(「ルカ」一〇章)
1 筋立てと構造
2 異化作用の発見
3 まとめと展望
三 「シモンと罪の女」(「ルカ」七〜八章)
1 筋立てと構造
2 異化作用の発見
3 まとめと展望
第六章 恋愛の誕生 唯一・一回性ということ
一 『トリスタン・イズー物語り』と恋愛
二 情熱的恋愛とアガペー
むすび 恋愛の根底的躍動性
第三部 地涌の菩薩たち 言葉を焚く賢治と石牟礼道子
第七章 宮沢賢治の修羅的菩薩像と相生協働態の諸相
一 宮沢賢治の修羅的な死と再生 妹トシの不在と現存を通して
1 妹トシの生(一八九八─一九二二年)
2 賢治の死と再生
二 賢治の宗教的宇宙とその修羅的菩薩像 「法華経」と妹トシの息吹き
1 修羅の転回 妹トシと「法華経」
2 羅須地人協会
3 慢と挫折
4 「雨ニモマケズ」手帳
5 天から堕ちる菩薩
三 相性的協働態の拓け
第八章 たましい(魂・anima) への道 石牟礼文学から始める
序
一 近代と石牟礼文学におけるアニマのくにおよびその諸相
1 近代
2 アニマのくにの物語り
二 近代の毒牙 メチル水銀とチッソ・近代国家の企業の本性
三 石牟礼文学の根幹
四 アニマのくにの諸相
五 むすび アニマの言葉をつむぐ
註
むすびとひらき
初出一覧
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著者
宮本 久雄(ミヤモト ヒサオ)
1945年生まれ。神学者、哲学者。東京大学名誉教授。専門は、古代・中世のキリスト教思想。東京大学文学部哲学科卒、同大学院修士課程修了。東京大学博士(学術)。和辻哲郎文化賞受賞。
著書に、『教父と愛智』『宗教言語の可能性』『「関わる」ということ』『福音書の言語宇宙』『他者の原トポス』『存在の季節』『愛の言語の誕生』『恨と十字架』『「ヨブ記」物語の今日的問いかけ』『いのちの記憶』『他者の甦り』『身体を張って生きた愚かしいパウロ』『旅人の脱在論』『ヘブライ的脱在論』『他者の風来』『出会いの他者性』『隠れキリシタン』など、
訳書に、V.ロースキィ『キリスト教東方の神秘思想』など多数ある。